違反投球

素晴らしい投手の条件の1つとして、変化球の精度が挙げられる。古くから使われるカーブ、無回転のナックル、落ちる魔球のフォークなど様々な変化球を駆使し、投球術の幅を広げることで投手は打者を抑えることができるのだ。

もちろん、それらは投手の才能と努力の賜物であり、時代が進むに連れてその技術も継承され、さらに進化していく。

しかし、中には人間業ではありえないほどの変化球がある。

ゲイロード・ペリーは投手として45歳まで怪我とは無縁の選手生活を送り、史上初の両リーグでのサイ・ヤング賞を受賞した名投手である。そんな彼の武器は、打者の手元で急激に曲がり出す奇妙な変化球で、その正体は「スピットボール」と呼ばれる違反投球だ。細工としてはボールにワセリンやポマードをつけたり、紙やすりで擦るなどして指先とボールの感触をわずかに狂わし変化させるのだ。

現代でも極稀に使われる技法で首の後ろや防止のつばにワセリンをつけてバレないようにしている投手がいる。当然、これらはルールで禁止されていて、発覚すれば即刻退場となる。

チームメイトはスピットボールを証言するもペリー本人からは証拠が掴めず、長い現役生活の中で引退前年の一度しか退場処分になっておらず、それも「通常考えられない変化球」という曖昧な理由だった。

別の試合では、審判がペリーに詰め寄り、調べると手元から紙切れが出てくる。ようやく証拠が出たと思いきや紙には「こんなところに種は無い。まだまだ甘いね」と書かれていたという。

1970年には来日し、オープン戦でスピットボールの投げた跡が見つかったが審判は気付かずに感激したという。

引退後、彼は自伝で「ボールに歯磨き粉を着けていた」などとスピットボールの使用を告白し、反省したかと思ったら、違反投球で使用したワセリンを販売する会社を立ち上げている。

そんな彼だがバッティングは苦手で1963年に「俺がホームランを打つ前に人類は月に行くだろう」と語る。そして1969年にアポロ11号が月面着陸した直後に初ホームランを打っている。