球界最悪の事故

とある野球アニメで、デッドボールを受けて打者が翌日に死亡するという印象的なシーンがある。もちろん、野球のボールはとても硬く、当たってしまえば大ケガを負うことは現実でも多々あるが、死亡事故は滅多に起きない。

レイ・チャップマンはインディアンスのショートとして俊足、好打、好守を披露し影でチームを支える選手だった。また陽気な性格の持ち主で多くのスター選手や大物芸能人からも好かれていた。

1920年、打率3割を維持する活躍で迎えた8月16日のヤンキース戦。相手の投手は危険な投球で知られる、カール・メイズだった。5回表、先頭打者として出塁したいチャップマンはいつものように前傾姿勢で構えた。そしてメイズが投じた内角高めのボールが、チャップマンの左のこめかみ部分を直撃し、地面に倒れた。衝撃音は「ドスン」という音がライトを守っていたベーブ・ルースのところまで聞こえるほどだったという。一時は、意識を取り戻して「私は大丈夫だ。メイズには心配するなと伝えてくれ」と言い、病院へ搬送される。試合後に駆け付けた選手たちは呼吸、脈拍が改善したことを聞いて病院から去るが、それが最後だった。

デッドボールを受けてから12時間が経過した頃、チャップマンは亡くなった。29歳の若すぎる死。さらに残された妻は妊娠していた。この死をきっかけにヘルメットの着用が義務付けられ、ボールも汚れたらすぐに交換するようになる。

この年のインディアンスはプロスポーツ界として初めて、喪章を付けてプレーするなど結束して球団初のワールドチャンピオンに輝くいた。優勝が決まると多くの選手がクラブハウスで涙を流した。